COLUMN
管理栄養士の栄養コラム
糖尿病高齢者の『低カロリー』と『野菜たっぷり』は要注意
2021.06.30
糖尿病の食事というと、『低カロリー』になるように選んで食事される方が多いのですが、高齢者では太っているように見えても、筋肉が減って脂肪が多い状態(サルコペニア肥満)の場合もあり、誰もが低カロリーを選択するのが良いということはありません。
筋肉の一番の材料であるたんぱく質が足りないまま低カロリー食にすると、糖尿病だけでなく、動脈硬化や認知症の進行を早めるといわれています。また、高齢者は、腸からの栄養の吸収力も落ちて、食べている量はあまり変わらないように見えても、低栄養状態になりやすくなります。このため、たんぱく質が不足すると転倒や要介護状態、感染症もリスクが高くなります。また、やや太めでも、筋肉は糖を消費する場所ですから、筋肉がやせると血糖値が下がりにくくなるため、高齢者の場合は、減量よりも体重の維持の方が大切になることもあります。
血糖値は、カロリーが高いだけでは上がりません。低カロリーでも糖質が多ければ血糖値は上がりやすくなります。例えば、鶏から揚げ100g(2~3個)で約300kcalですが、糖質は約10g(衣の小麦粉や片栗粉の分)です。しかし、せんべい4枚(約30g)は、100kcalと重さもカロリーも1/3ですが、糖質は約20gで鶏から揚げの2倍になるので血糖値は2倍高くなるわけです。
(※糖質20gはコンビニおにぎり半分の糖質量と同じ)
しかも、から揚げの場合、良質なたんぱく質をとることで、減っていく筋肉の栄養を補うことができますが、せんべいは甘くなくても、原料が『米』なのでたんぱく質は少なく、
鶏肉と同じような効果はほとんど期待できません。
また、煮物やサラダ、酢の物などで毎食『野菜たっぷり』食べている場合、たんぱく質はごくわずかしか含まれていないため、一緒に肉や魚、卵、乳・大豆製品など良質なたんぱく質が毎食とれていない方は、糖尿病の悪化や要介護のリスクが高まることもあります。野菜の煮物をよく作って食べるとおっしゃる時に多いのは、じゃがいもやさといも、ごぼう、れんこん、カボチャなど、糖質の多い野菜を砂糖やみりんを使って作り、1回作ると2.3日食べるというケースです。その場合、糖質の多いおかずが連続するため、低カロリーなのに血糖値は上がりやすくなってしまう、ということになります。糖尿病のある高齢者の場合は、体格に関わらずカロリーで判断しない、野菜だけ多く食べないということが大切です。
3食うちの1食でもたんぱく質が不足すると、「筋肉量が低下するリスクが高い」とする最近の報告もあります。野菜でお腹いっぱいになってしまわないよう、良質なたんぱく質のとれる食品を毎食摂りながら、美味しく食事を楽しんでいただきたいと思います。
(管理栄養士 蛯原 啓子)